2023年、東芝の「AUREX」ブランドから、コンパクトサイズのカセットプレーヤー「AX-W10(C)」が発売されました。
かつて東芝が発売していたカセットプレーヤー、「Walky」の名前を受け継ぐこのプレーヤーですが、Bluetooth接続によるワイヤレスイヤホンでカセットテープの音楽を聴くことができる(=ノイズキャンセリングが使える!)など、現代の技術を取り入れた製品となっています。
この記事では、その「AX-W10C」を実際に買って使用してみた感想と、そのルーツに当たる、かつての東芝Walkyの歴史を振り返ってみます。
価格も7000円台と、リーズナブルなこの製品。
「気になったら買い」と言ってしまって良いと思います。
などなど、この製品が少しでも気になっている方には必ず役に立つ記事内容となっていますので、ぜひ最後までお読みいただければと思います。
現代の技術を取り入れてよみがえった、コンパクトカセットプレーヤー
伝統のブランド「Walky」復活
2023年の7月、東芝エルイートレーディングのオーディオブランドである「AUREX」から、コンパクトなカセットプレーヤーが発売されました。
製品名は、「AX-W10」と「AX-W10C」。
昔のカセットテープタイプの「Walkman」のような製品ですが、当時そのライバル製品だった東芝の「Walky」というカセットプレーヤーがあって、この「AX-W10」もその「Walky」の愛称がつけられています。
伝統のある「AUREX」ブランドもそうですが、当時を知る世代には非常に懐かしいネーミングではないでしょうか。
価格も家電量販店で7,700円程度と、お試しで買ってみることも可能なリーズナブルな価格設定となっています。
気になったら買い、そう言ってしまって良い製品ですが、ここからその理由を詳しく解説して行きます。
カセットのデザインが見える、シースルータイプをラインナップ
「AX-W10」と「AX-W10C」の違いはデザインのみで、「C」のほうはカセットの蓋が全面透明なシースルーデザインとなっています。
実際に写真を見ていただければ一目瞭然、カセットテープのデザインが一目でわかる、おしゃれなデザインとなっていて、当時を知らない世代にも人気となっています。
ただ懐かしいだけではない、令和の新製品としての良い点と悪い点
Bluetooth接続対応など、新製品ならではの優れたポイントがある
さて、この新「Walky」、ただ懐かしいだけの製品ではありません。
令和に出た新製品ならではの優れたポイントとしては、以下のような点が挙げられます。
・単三電池2本での再生(単3型アルカリ乾電池使用時、約16時間)だけではなく、USB-C給電によるモバイルバッテリーでの再生が可能。
・Bluetooth接続により、ワイヤレスイヤホンやワイヤレススピーカー、さらにはカーオーディオなどでの再生も可能。
もちろん、ステレオミニジャックを使っての有線イヤホンや外部スピーカーへの接続も可能です。
・おまけ機能として、バーチャルサラウンド機能(音の広がりを強める)が搭載されている。
これらのポイントの中でも、特にBluetooth接続の機能は昔のカセットプレーヤーではありえないもので、これが最大の特徴ということになります。
何と言っても、ノイズキャンセリングイヤホンを使ってカセットテープの音が聴けるというのが非常に面白いです。
ノーマルポジション限定など、かつてのカセットプレイヤーに比べると残念な点も
一方で、かつてのカセットプレイヤーと比べてしまうと物足りなく感じてしまう点は以下の通りです。
・再生可能なカセットテープはノーマルポジション(TYPEⅠ)のみで、ハイポジション(TYPEⅡ)やメタルポジション(TYPEⅢ)に対応しない。
音質を無視すれば再生は可能だが、特にメタルテープの場合は再生ヘッドにダメージを与える可能性もあるので注意。
・ドルビー・ノイズリダクションを搭載しないため、ドルビーを使用して録音したカセットは、本来の音質が発揮されない。
(高音部が不自然に強調された感じになる可能性がある)
これらは、かつての「WALKMAN」などでは当たり前に対応していた機能なので、残念なところです。
ただ、どちらの点にしても現在では一部のハイエンド製品以外では対応する製品がほとんどなくなっているのが現状で、致し方ないとも言えます。
Walky AX-W10Cの外見をチェック!
それでは実際に、このWalkyの外見をチェックしていきましょう。
カセットテープの操作部分は、オーソドックスな構成
まずはカセットの操作部分。
再生(PLAY)ボタンに早送り(FWD)/巻き戻し(REW)、停止(STOP)ボタンと、オーソドックスな配置となっています。
再生時にテープの最後まで来ると自動的に再生は停止して、押し込まれていた再生ボタンも元に戻る仕組みになっていますが、早送り/巻き戻しについては、ただテープが停まるだけでボタンは押されたままという仕様です。
そして、もう一つの灰色のボタンが録音(REC)ボタン。
忘れられがちですがこのWalky、単なるプレーヤーではなく外部入力による録音も可能になっているのですよね。
カセット上部の誤消去防止ツメが折られていると、このボタンを押し込むことはできなくなります。
誤って上書き録音するのを防ぐために、ちゃんとツメを折っておきましょう。
各種端子などが装備された、側面部分
全体に曲面が多く使われたデザインのこのWalkyですが、側面部分のみは平らな形になっています。
上面に当たる部分には、ボリュームダイヤルとイヤホン端子(ステレオミニジャック)、外部入力端子とUSB-C端子が装備されています。
ボリュームダイヤルは、Bluetooth接続での再生時も有効で、アナログ式のものではなさそうです。
USB-C端子は電源供給専用で、パソコンとつないでもテープの音を転送したりはできませんが、単3電池だけではなくモバイルバッテリーでも駆動できるのが大変に便利です。
反対側の下面には、メーカー名や機種名が記載されている以外に、「VIRTUAL SURROUND」のオン・オフスイッチがあります。
このバーチャルサラウンド機能、大きなホールで聴いているような音の広がりが味わえるというものですが、要するにはおまけ的な機能なので、音質的にはさほどのものではありませんでした。
これはこれで面白いかな、程度のものだと思って普通に再生するほうが良さそうです。
もっとも重要な機能? Bluetoothのボタンがある裏面
裏面には、単3電池2本が入る電池ケースの蓋以外に、このWalkyのもっとも特徴的な機能であるBluetoothのペアリングボタンがあります。
少し長めに押し込むと点滅を始めて、ワイヤレスイヤホンなどの各種Bluetooth機器との接続が可能になります。
新たな機器と接続する場合は、テープの再生ボタンを押してからこのペアリングボタンを長押し、という流れになります。
なお、再生終了後もこの点滅状態でずっと放置しておくと、電池がなくなってしまう場合もあるので注意が必要です。
(再生が停まっても、電源がオフになるわけではないので)
テープの走行・再生系部分はシンプルな造り
キャプスタンやピンチローラー、再生・録音ヘッドなどのあるテープの走行・再生系の部分を確認してみました。
オートリバースの機能もないため、見ての通り大変にシンプルな造りで、右端の青い消去ヘッドも単純な磁石ではないかと思います。
(「直流バイアス方式」というベーシックな方式のようです)
再生状態では、ヘッドもローラー類も飛び出してきて簡単にアクセスができる状態になるので、クリーニングなどのメンテナンスが容易なのは嬉しいところです。
やはりシースルーデザインは楽しい!
カセットのデザインが完全に見えるというシースルータイプのため、使用するカセットテープによって全く違う姿に見えるというのはやはり楽しいところです。
全体が真っ白なセラミックハーフのカセット(ソニーUX Master)と、カセット自体がシースルーのデザインとなっているものとをセットして比較してみると、まさに全く別物に見えますね。
カジュアルな外見だけど、しっかりした造りのパッケージ
家電量販店で売られていたものを買ってきたのですが、Walky AX-W10Cのパッケージはフックに吊り下げて売ることができる、スーパーとかドラッグストアなんかでよく見かけるタイプのものでした。
高級感はありませんが、カジュアルで手軽に手に取りやすい、親しみやすい感じを狙ったのかなという感じです。
グレーベースでロゴの青がワンポイントのようになっているデザインもおしゃれですね。
中身は非常にしっかりした造りで、ラバーっぽいしっとりした手触りのクッション材にプレーヤー本体が埋め込まれているような感じの、安定感のある梱包がされていました。
商品を大切にしているような印象があって、好感が持てますね。
音揺れが目立つ感じが残る、カセットテープ再生時の音質
まずはワイヤレスイヤホンとBluetoothペアリング
それでは実際にワイヤレスイヤホンで、再生時の音を聴いてみます。
使用したのは、こちらも手持ちのソニー「WF-C700N」というワイヤレスイヤホンで、1万円台という低価格にも関わらずノイズキャンセリング機能が追加されている、ということで人気となっている製品です。
本題からは外れますが、この「セージグリーン」というカラーもどこか昔の家電っぽい色で、大変気に入っています。物理ボタンがあるので操作もしやすく、こちらもおすすめの製品です。
さて、イヤホンのケースのボタンを押してから、AX-W10Cの再生ボタンを押し、さらに本体裏側のBluetoothペアリングボタンを長押しします。
すると、ペアリングの完了音と共に、再生したカセットテープの音楽が流れ始めます。
音楽を普通に楽しむことができる音質。ただし音揺れが気になる。
さて、カセットテープ再生時の音質ですが、普通に音楽を楽しむのには十分な音質と言って良いでしょう。
いかにもカセットテープらしいヒスノイズなどはそのまま残っている印象で、昔の数万円くらいした「WALKMAN」などの音質には及びませんが、高音がこもって聞こえるようなこともなく、安っぽい感じはありません。
7000円台という価格で、ノーマルポジションのみ対応でドルビーNRもないので、この辺りは価格通りというところでしょうか。
気になったのは、音揺れが割と目立つことで、その基準数値である「ワウ・フラッター」の値は非公開ということですが、そこはちょっと残念でした。
ただ、使用しているカセットテープが古く、こちらの劣化もかなりあるはずなので、もっと新しいテープにきちんと録音したものを使えば印象は変わるかもしれません。
なお、本体を揺らした際の音揺れはそれほどなく、普通に歩きながら聴くには全く問題は感じられませんでした。
ノイズキャンセリングでカセットを聴くのは新鮮、カーオーディオでも使用可
Bluetooth接続ということで、やはり試してみたかったのがノイズキャンセリング。
こちらはもちろん最新の技術なので、WF-C700Nのボタンを押してノイキャンを作動させると周囲の環境ノイズがすっ、と小さくなります。
すると、カセットテープ独特のヒスノイズを伴った再生音が、よりはっきりと耳に届く感じに。
例えるなら、すごく静かな部屋でカセットを聴いているような印象で、期待した通りに全く新しい感覚が味わえました。
この新Walkyを購入された方は、ぜひ試してみて欲しいと思います。
乗っている車のカーオーディオがBluetooth対応なのでこちらも試してみましたが、テープを再生しながらペアリングボタンを長押しするとすぐにデバイスとして認識されて、車内のスピーカーからカセットテープの音が流れてきました。
テープで音楽を聴きながらドライブ、というのは恐らく20年ぶりくらい(カーMDを使い始める前)で、当時の曲を流すと非常に懐かしい感覚が味わえました。
こちらもぜひ試してみてください。
同時にAUREXから発売された、カセットプレーヤーシリーズ5種類
「AX-W10」「AX-W10C」と同時に、AUREXからは全部で5種類のカセットプレーヤーが発売されました。
コンパクトタイプ以外に、ワイヤレススピーカータイプ(モノラル)の「AX-R10/C」(こちらもシースルータイプあり)、ミニラジカセっぽいデザインのステレオスピーカータイプの「AX-T10」があり、どれもデザインのモチーフは共通しています。
登場時には、人気のイラストレータさんによるキービジュアルなどが使われた店頭ディスプレイも大々的に行われて、若い世代に遡及しようという意気込みが強く感じられました。
この発売に合わせて「AUREX」ブランドのロゴ刷新まで行われていて、発売元の東芝イートレーディングとしても非常に力の入っていたことが分かります。
コンパクトタイプでも、Bluetooth接続などによってスピーカーから再生することは可能ですが、用途に合わせて、他のタイプを検討してみても良いかもしれませんね。
(おまけパート)東芝Walkyの歴史を振り返ってみると
カセットの全面が見えるデザインだった、初期のWalky
元祖ヘッドホンステレオとして圧倒的な人気を誇った、ソニーの「WALKMAN」に対抗すべく、各社から発売された小型カセットプレーヤー。
東芝からも、「STEREO Walky」のシリーズが発売されていました。
初期のモデルである「KT-S2」は、ソニーの初代WALKMANにも似た縦型のデザイン。
まだ、小型化が難しかったのかも知れませんね。
カセットテープのほとんど全面が見えるデザインが特徴的で、現在の「AX-W10C」にも少し共通しているような気もします。
プレーヤーの隣にあるのは「FMチューナーパック」というオプションで、本体とセットで売られていました。東芝Walkyと言えば、これを思い出す方もおられることでしょう。
これは、カセットテープの形をしたラジオチューナーで、テープの代わりにこれをセットすることで、FMラジオが聴けるという非常に面白い発想のオプションでした。
まだ、プレーヤー本体に内蔵できるほどラジオを小型化するのが難しかった、そんな時代を感じさせますね。
本家「Walkman2」に対抗して小型化した「Walky VS」
東芝Walkyのヒット作と言えば、この「Walky VS」。
「カセットケースサイズ」を名乗って小型化を果たした、本家ソニーの「WALKMANⅡ」(→ソニー公式サイトの解説)に対抗し、こちらも小型化を実現しました。
(その代わり、カセットテープの全面が見えるデザインではなくなってしまいましたが)
チューナーパックもFM・AMの両対応に進化して、「世界最小(FM/AMが聴けるカセットプレーヤーとして)」を名乗ることになりました。
プレーヤー本体と同じくらいの、超ミニサイズのアンプとスピーカーが別売りのオプションとして用意されていました。
セットにすると机の上に置けるミニコンポになります、というこういうコンセプトの商品、80年代には多かったですね。
実用性は分かりませんが、憧れた人も多いのではないでしょうか。
まさかのアイデア、カセットよりも小さい「Walky KT-AS2」
最後に紹介するのは、「Walky KT-AS2」。
何と、正面の面積がカセットテープよりも小さい、というと「いったい何を言ってるんだ?」という感じですが、カセットの上部がプレーヤー本体からはみだしている、という無茶なデザインによって、この小ささを実現しています(「トースター」とか呼ばれたりもしていました)。
筆者の知る限り、ここまでの小型化を実現したのは、東芝Walkyだけだと思います。もちろん、世界最小。
Walkyの定番、FM/AMチューナーも小型化されていて、こちらはカセットテープよりも小さいので、セッティング時にはみ出すことがないようになっています。
ラジオを聴くときは、小型サイズの真価が発揮されていた、ということになりそうですね。
振り返りのまとめ
製品のコンセプトとしては、Z世代などの若者がターゲットだという、新生Walkyシリーズ。
でも、かつてのWalkyを知る世代の筆者でも、十分に楽しんで使うことのできる製品だと感じました。
ぜひとも、実際のカセットテープ黄金時代を経験している、中高年世代の皆さんにも手に取ってみていただきたいと思います。
このような製品が、もっとたくさん出てきてくれると楽しいだろうなあと期待してしまいます。
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